飛士己(ひとき)君によせて

平成14年2月19日
また大切な命が天国に帰ってしまいました。
香川県での事件です。
テレビのワイドショー等で大きく報道された為
ご存知の方もいらっしゃると思います。

生後1歳2ヶ月の飛士己君の身に起こった事です。
このケースもSIDSの不正使用によって
誰のせいでもない病死としてうやむやにされかけています。
何故そうなったのか
その理由について考えて欲しいと思います。
ご遺族から飛士己君のお写真を
『あしあと』のページにお借りして紹介させて戴いています。


事件の概要

この出来事を知るきっかけとなった
ご家族からのメールをお読みください。

2月19日に1歳の長男が無認可保育所内で死亡しました。
気づいてから救急車も呼んでもらえず、何十分も経過してから園長が直接、
病院に連れていったようです。死因について不明な点が多く警察を呼び、
司法解剖を香川医大でしてもらいましたが、死因を特定できず、
突然死という形に結論がでています。
 しかし、前日の長男の体に目立つアザがあったこと、
当日も別の部分にもアザがあったこと、
今思えば最初に預けた2月4日の写真にも叩かれた跡があったこと、
園長の不信な行動と言動から、私たち夫婦は体罰による
ショック死ではないかと考えています。


これが第一報でした。
この後の何通目かに届いたメールを読んで愕然としました。
飛士己君に対する虐待を園長が供述したとの事でした。
一部抜粋します。

暴行の内容は(園長が)1人で4人の子を見ている時に
うちの子が泣き止まないので、叩いたり、蹴ったり、
布団の上から踏みつけたりしたそうです。


メールには他にも詳しい当日の出来事
園長の不審な供述等に付いて書いてありました。
異常に気付いて病院に行くのに30分もかかった理由としては、
他の園児を放って置けない状況だったからである。と言い
救急車を呼ばなかった本当の理由としては
虐待が知られるのを恐れたからである。等

後は公開できない内容が含まれていると判断して
上に載せた一部だけを紹介しました。

この後、飛士己君は解剖を受けたのですが
解剖所見は、『SIDSの疑い』と付けられてしまいました。


問題点

一番の問題は、虐待した園長です。
これは許されるものではありません。
きびしい罰を求めます。

もう一つの大きな問題点。
それは、この飛士己君の死因を『SIDSの疑い』とした事です

死因が『SIDSの疑い』となるとそれは病死の疑い、
つまり、飛士己君は病気で死んだのだ、
だから、虐待は関係無い
死んだ場所が保育園だっただけで、園には責任がない
そういう事になってしまいます。

これまでのSIDSの不正使用による犠牲者である
赤ちゃんとその遺族と同じように
真相究明・罪に対する罰を求めて
遺族にはとてもつらい戦いを強いられるのです。


乳幼児突然死症例分類指針

基本分類 臨床医学情報 死亡状況調査(DSI) 解剖検査所見
突然死の状態にて死亡した、
満2歳未満の乳幼児の基本的
分類
*明確な臨床医学情報
*その他の診断場参考となる
 所見・情報等
死亡状況調査(DSI)
の調査結果
死亡検案所見・肉眼的解剖所
検として考慮すべき基本事項
顕微鏡的監察所見
として考慮すべき基本
事項
TSIDS(乳幼児突然死症候群)

予期しない乳幼児の突然死で
あって頭部を含む全身の剖検
による詳細な検案によっても
突然死を説明できる所見を
特定し得なかった例
臨床的な確定診断に至るだけ
の検査所見・外表所検討等を
有さないもの、基本的には
CPAOPであり血液検査所見
では末血所見に異常なく、 
生化学的検査にてCPAOA症例
としての所見を認める、口腔内
異常物等は認めず、気道確保、
挿管等が容易に行えるもので、
外表所見として重篤な
外傷を疑う所見を認めない。
(参考所見は診断の手引きを
参照)
CPAOA=cardio pulmonary
arrest on arrive
(到着時心肺停止状態)




*外因的要素があっても
 死因とは無関係と判断
 される場合
*明らかな疾病に罹患して
 いた状況にないか、
 罹患していても死亡に至る
 病態ではなかった事が
 明らかなもの
*心肺停止状態にて発見
 された場合、直前健常
 であった事を明確に示す
 情報、検査所見等
 (最終生存確認時の
 理学所見等)を有するもの
 なお、直前とは24時間
 以内を指し、情報は死亡
 推定時刻 により近い物を
 採る
脳を含む全身の詳細な解剖が
行われる事が必須である。
*特筆すべき所見を認めない
 (全く異常がない)か、基本
 的に生命に聞きを及ぼす
 肉体的所見を認めない。但し
 軽微な奇形(多指症、副脾等)
 や治癒した治療痕等は問題と
 しない。
*軽微な肉眼的所見を数個以内
 程度に認めるが、死因とは
 無関係と判断される場合
*急死の所見は認める
肉眼的剖検後は組織
検査を行う事を原則
とする
*直接病因と言うよりは
 病理的組織所見
*死因とはならない程度
の軽微な病理組織所見
USIDSの疑い

Ua:純粋なSIDSとするには
   躊躇するものの、剖検診断上
   SIDSを選択するのが適当と
   考えられるもの
Ub:剖検は行なわれなかったが
    臨床所見およびDSIにより
    SIDSが強く疑われる症例
    (暫定的分類)
Ua:
*無視できないが死因とまでは
 採れないような病変が認めら
 れる 場合(ex.限局的な
 気管支炎、 小さなVSD等)
*死亡原因と言うよりは死後変化
 もしくは治療の影響による変化
 と考えられるもの
*急死の所見は認める
死亡原因とならない疾病
/病態の組織所見
*各疾病に特有の病理
 組織所見
 (既存の基準所見を
 参照)
・軽微な病理組織所見
Ub.剖検を行なわなかったがSIDSを強く疑うもの
VSIDS以外の内因性急死および
  既知の明らかな病死


診断された疾病の病態が突然死的
な死亡状況の死因として充分に
論理的説明の可能なもの
種々の理学的・生化学的検査
所見として死因と判断すべき
原因疾患に合致するデータが
得られており生前の段階で死
亡してもおかしくない生理的
状態にあった事を示す医学的
証拠を有するもの(高熱、 衰
弱等)
DSIにおいて明らかな
外的要因を認めないか、
明確に外因を否定する証拠
を有し、かつ、現病歴として
死因に該当する疾病への
罹患が明らかなもの
*各疾病により特有の病理所見
 (既存の基礎的所見参照)
*急死の所見が必ずしも揃わ
 ない事も多い
*各疾病に特有の病理
 組織的所見(既存の
 基準所見参照)
W外因死

   外因による急死
    外傷・事故・窒息
    溺水・脱水症・鬱熱・凍死
    小児虐待
    殺人・傷害致死
    中毒 
臨床所見として
  明らかな窒息所見・大きな
外傷等を外表所見・X-P検査
所見等として認める場合
詳細は診断の手引きを参照  
DSIにおいて死亡原因
としての外因の関与が
明らかなもの

詳細は診断の手引きを参照
死亡原因が充分な所見が認め
られるもの
(重症外傷、窒息要因、他詳細
は診断の手引きを参照)
肉眼的所見を補完・肯定
する所見
(詳細は診断の手引きを
参照)
X分類不能の乳児突然死

臨床・剖検所見いずれからも
確定診断に至らず、病死・外因死
の判断が出来ないもの
基本的にT型と同じだが口腔
内異物の存在等、臨床所見的
にも外因の可能性が否定でき
ず、確定診断に至るだけの
所見を有さないもの
DSIにおいて外因の関与が
疑われるもの、もしくは
関係者の話に種々の
矛盾点を認めるもの
Xa *剖検所見として生命危機への関与度やDSIとの
     整合性に疑問の感じられるもの
    *剖検所見として外因関与もしくは外因死の可能性
     が示唆されるもの
Xb *剖検を行なわず、もしくは不完全な剖検のため、
     DSI・臨床所見からも死因を推定でいない場合

    判定基準  
    上記分類において2000年3月3日現在、T型を乳幼児突然死症候群(SIDS)、U型をSIDSの疑い(病死および自然死)
    V型は(1.病死)、W型は(2〜11外因死)、X型は原因不明の乳幼児突然死(12、不詳の死)とする

日本SIDS学会・病例検討委員会(2000,3)


上の表は乳幼児突然死の分類です。
5種類に分類されています。
分類の上から2番目に『SIDSの疑い』があります。
目を通してください。
そして、4番目の『外因死』の部分にも注目してください。
4番目こそ飛士己君に付けられるべき解剖所見です。
「顔がうっ血していた為、窒息死かと考えるがその割には
体はうっ血のあとがみられない疑問がある。」

これは、飛士己君が運ばれた病院の医師の言葉です。
普通ならば、うっ血は同じ方向
つまり下を向いていたのならば
顔も身体もそちらの方向で同じように起こっているはずなのです。
顔だけに見られると言う事は変であるとこの医師は言っているのです。

これが初めから、4番目の『外因死』(小児虐待)と付いていれば
我が子を失った耐えがたい苦痛
それ以外のいらぬ苦しみは無かったはずです。

この飛士己ちゃんが天使になった保育園は
過去にも体罰が問題になり行政から指導も受けているのです。


何故『SIDSの疑い』なのか

様々な可能性が考えられます。
まずこれはありえない事だと思うのですが

剖検の通り『SIDSの疑い』であった。

園長の虐待したと言う供述が警察から解剖医に伝わっていなかった。

虐待の痕跡を発見できなかった。

解剖医がSIDSに付いて勉強不足だった。

乳児が死んだらSIDSだと思っている解剖医だった

加害者を出さない事を目的にエセヒューマニズムを発揮した。

SIDSにしてくださいと誰かに言われた。

僕は、このケースに『SIDSの疑い』などという結果を出した
解剖医に怒りを持っています。
その為、不快な表現になっている事をお許し下さい。

最後に書いた、
『SIDSにしてくださいと誰かに言われた。』
と言う一文について一つこんな可能性があります。
それは、2001年に東京で行なわれたSIDS学会での話です。
前にも書きましたが
この年の学会では、施設側の弁護士の講演がありました。
その一説を以下に紹介します。

平成6年8月 月齢4ヵ月児 腹臥位 そけいヘルニアの手術ということで
ある大学病院に入院、翌日の夜母親が帰った後で泣いているので看護婦がうつ
ぶせにさせた。その後約1時間後巡視の時間ということで見に行ったところ
心肺停止の状況であった。蘇生したが残念ながら亡くなった。この件は刑事
事件になっている。
解剖された法医の先生は、吐乳哺乳の窒息ではないかと
いう意見である。ですが私の方ではそれはおおいに疑問なのではないか、
ということで警察の方にSIDSということを念頭において重々捜査して
いただきたいとお願いした。
法医の先生の意見は窒息であったが、最終的には
このケースも嫌疑不十分ということで、担当の看護婦は不起訴になった。
民事の方では問題があったわけだが、このケースについては正式の裁判では
なく調停ということが申し立てられた。しかし解剖までされて、
刑事上の判断がでているということで、
病院の方からすれば特にミスはなかったということで、調停の申し立てに
関してはこちらはそういうわけにはいかないとお断りしている。現在のところ
正式な裁判は起こしていない。この件は病院としてきちんと対応していただいて、
   家族にもきちんと説明していただいて特に問題なく
対応されたという事案である


講演を録音した物をテープ起こしした文章です。
注目して欲しいのは色を変えてある部分です。

遺族が悲しみに沈んでいる隙に
施設側は弁護士を通してSIDSを念頭に置いてくださいと
捜査の途中でお願いをしたと言うことです。
結果的にこのケースは弁護士の目論見どおり
解剖結果が吐物哺乳の窒息であるにもかかわらず
警察がSIDSを念頭においての捜査をした結果からか
刑事事件に発展する事が無かったのです。

こんな事が許されて、しかもSIDS学会で発表されているのです。

もしこれを遺族がすると
解剖医との癒着を指摘されて
鑑定は信憑性の無い物だと言う扱いになってしまいます。
それ以前に警察からは、捜査の妨げになると言われ
解剖医との接触を禁止されるのが現状です。

実際のケースとして
解剖医が窒息死と診断しても
あまりに酷い場合だけは別として
保母さんや看護婦さんが起訴されたケースは
よほどの事ではない限り起こっていません。

昨年、遺族側にとって勝訴的な和解をした数件など
(愛媛の凪咲ちゃんのケースや埼玉の咲月ちゃんのケース)
解剖医の窒息の所見によるところが大きく
遺族をいらぬ苦しみから解放する手助けになったのです。

咲月ちゃんのケースでは
施設側が早い段階で誠意を見せ
真実を語った事を評価して
咲月ちゃんのお母さんが警察に対して
『寛大な処分を求め、併せて処分の理由の社会的開示を求める』
と言う上申書を提出しています。
これを受けて警察は平成13年3月30日に保母さんを不起訴としたのです。

つまり今なら、事故を起こし窒息死と診断されても
事故を起こした施設側が真摯に受け止め
誠意を持って対処すれば
刑事裁判で起訴される可能性は低いのです。
現場で働く乳児と接する最前線の方は、この事を知っておいてください。

『ちびっこ園』で亡くなった涼介君のケースでもこれは当てはまります。
本部(経営者)は保母に対し
遺族との接触を禁止し真実を語る事を許しませんでした。
しかし保母さんは、誠意を持って真実を話し
事故の詳しい状況を伝えました。
このケースでは刑事裁判が2002年3月26日の
今現在も進行中ですが
起訴されたのは経営者であり
誠意を見せた保母さんが起訴されることはありませんでした。
詳しくは『ちびっこ園問題を考える会のHP』にあります。

民事裁判の場合でも
まどかちゃんのケースでは
遺族が神戸地裁に提訴した段階では
そばにいた保母さんもその対象にしていたのですが
訴訟の段階で遺族に協力的であった事により
保母さんへの訴えを取り下げています。

飛士己君のケースではどうでしょうか?
ご家族に対して
『人として、してはならない事を犯してしまいました。
これから警察で全てを話します。償いをします』

ここまで遺族に話し手紙まで書いた園長ですが
『SIDSの疑い』と言う診断が付いた直後に態度を急変させ
遺族から逃げているそうです。

どうかこの飛士己君を襲った悲劇が
病死か虐待死かなどと言う
的外れな話に発展することなく
罪に対する罰
遺族の苦しみを増やさない方向へと
進む事を望みます。
これは、園長による虐待死です。

警察の積極的な捜査を求めます。
一日でも早く遺族をいらぬ苦しみから解放してください。


進展があり次第更新して行きます。


2002年3月29日遺族は
園長を殺人罪で告訴しました。


同年4月12日
飛士己君を虐待した園長が傷害容疑で逮捕されました。


風歌の命日に
宮田浩太郎
2002年3月26日