SIDS研究の陰で

(2008年3月26日)

睡眠中の乳児が、無呼吸に陥り
そのまま呼吸を再開することなく死に至る。

遺伝的な要因があり
SIDSで亡くなった児のいる家庭では
兄弟姉妹に発生する確率が高くなる。

睡眠中の無呼吸と自律神経の不安定が
SIDSの犯人である

ほとんどの乳児にとって
日常的に起こっている取るに足りない呼吸停止が
生理学的に異常のある乳児にとっては
致命的な欠陥となる。

SIDSで亡くなる赤ん坊は
誕生の時にそう運命付けられている。

睡眠時無呼吸モニターを付ける事によって
危険を予知する事が出来る。

SIDSについて調べると
どこかで見聞きしたことがある学説です。

1999年に風歌が天国に旅立ち
死因はSIDSだとされ
それから情報を集め勉強を始めた僕もこの学説を聞かされました。
無呼吸モニターのパンフレットもいまだに持っています。

漠然と知りえる情報ですが、
どこから来たのかと言う事ははっきりしています。

1972年にアメリカの『小児科学』と言う学会誌の10月号に掲載されました。
発表したのはA・シュテインシュナイダーと言う医師です。
(立派なもみ上げと黒ぶちメガネの医師と書いてある本があります。)
大変権威のある雑誌だそうで
瞬く間に研究者に受け入れられ
研究者達は何故無呼吸が起こるのか、と言う研究へとシフトしました。

受け入れられたのには、訳があります。
ある家庭で生まれた3人の児が突然死しました。
ホイト家での出来事です。
その次に生まれた赤ちゃんを
このA・シュテインシュナイダーが研究対象に選び。
自分の病院で無呼吸モニターを付け観察しました。
その赤ちゃんはモニターをしていない時
家にいる時に突然死しました。
生後79日退院した夜でした。
一年後その下に生まれた赤ちゃんも
研究対象にしました。
その子も病院から家に帰された翌日に亡くなりました。
A・シュタインシュナイダーによると
病院でモニターを付け観察してた時に
この2人は度々無呼吸発作を起こしていたらしく
同じ家庭でSIDSは繰り返されやすいとされ
上に書いた学説が生まれたのです。

一軒の家庭で5人の子どもが死んでいます。
そのうち一人は2歳4ヶ月で亡くなっています。
死因は解剖される事無く
先天的な心臓疾患でした。

このような実例がある事によって
学説は信憑性のあるもの
裏づけされたもの
と受け入れられました。

この後、A・シュタインシュナイダーはこの道の権威とされ
やがてアメリカSIDS研究所の所長になりました。
そして無呼吸モニターは子どもを守る為の最善の道具になりました。


SIDS(Sedden Infant Death Syndrome)
と言う言い方が始まったのは1969年からです。


しかし、この学説こそがSIDSの研究を遅らせ
被害者を増やし
悲しみを背負う家族を増やした学説です。


その数年後
イギリスのサウソールと言う医師が、
3年にわたって無呼吸モニターを使って
この学説の検証を試みました。
9251人の赤ちゃんを24時間記録しました。
その中からリスクが高いと言われる
未熟児のグループ約3千人を追跡調査しました。
27人の赤ちゃんが突然死していました、
しかしどの赤ちゃんも無呼吸を起こしたと言う記録は残っていませんでした。
『SIDSが無呼吸に関係していると言うデータは無い』
と言う結論で結ばれています。

この研究者はSIDSを防ぐ為には
『赤ちゃんをうつ伏せ寝にするべきではない』
と言う簡単な解決法を提唱しました。
実際にイギリスでは
このうつ伏せ寝をやめようと言うキャンペーンを始めて
劇的に乳児の突然死が減ったのです。

これらは、上の枠の中の学説が発表されてから10年後の1982年に
A・シュテインシュナイダーがホストを務める
国際的な学術会議で発表されました。

一方アメリカでは1980年の時点で、
モニターこそがと二万人以上の赤ちゃんがモニタリングされ
その数は増える一方でした。
一大産業になっていました。

1986年
アメリカ医学会の最高峰では
サウソール医師の発表を受けて
モニタリングはSIDSの予防に役立つのか?と言う
総意審査会が開かれました。
様々なデータや研究が発表されました。

そこでやり玉に上がったのが上の
A・シュテインシュナイダーの学説です。
彼はそこで
女性の一団を引き連れて壇上に上がりました。
SIDSで子どもを亡くし次の子の為にモニターを頼りにしている母親や
モニターを装着した赤ちゃんを抱いた女性もいました。
それらの人を背に彼は感情論のみを話し
新たな研究成果やデータを出すことなく
その総意審査会をけなして帰ったそうです。

総意審査会は、
アメリカでのモニタリングが普及しても
SIDSの死亡率が減少しない事実などを踏まえて
しかし、言葉を選び
『モニターが命を救ったという証拠が無い』
『無呼吸と突然死には関連性はなく、A・シュテインシュナイダーの学説は実証できない』
と結論付けました。

言葉を選びと言うのは
モニターを信じている家族に配慮して
モニター産業からの寄付なども考慮して
『モニターは命を救わない』
とは言わなかったのです。
感情論や政治的な判断が働いたそうです。



結論が出された同じ日
アメリカのシラキュースという場所で
死因が『SIDS』とされた生後3ヶ月の女の赤ちゃんが
実は父親に殺されていたと言う事件の有罪判決がでました。
その家庭では、1歳4ヶ月の兄もコインを喉に詰まらせて
妹が生まれる直前に亡くなっています。
その後もう一人女の子が突然死しています。

3人とも多額の生命保険が掛けられていました。



この事件に関わった人がSIDSに疑問をもち
調査を始めました。
一人の地方検事です。
学説の根拠になった家庭で
5人も子どもが亡くなっている事に疑問を持ったのです。


まず、発表された学説のリポートを読み殺人では無いかと疑問を持ち
警察の検分などで母親と二人きりの時に限って
子どもが亡くなっていることを知り確信に変わり
そして、その家庭を探しました。
研究対象になったホイト家を探しました。

母親はあっさりと自分が犯人だと認めました。
5人の我が子を手にかけたことを淡々と話しました。
当時研究所にいた看護婦も母親の異常な態度を覚えていました。
A・シュテインシュナイダーに当時
『退院させたら、子どもが殺される』
とまで訴えた看護婦もいました。
『無呼吸発作など見たことが無い』
と裁判で証言もされています。

1995年4月有罪判決が下されました。


この判決の時点で
学説が発表されてから20年以上が過ぎています。



自分の学説の根底が崩れたにもかかわらず
A・シュテインシュナイダーは学説を訂正する事もなく
立場を利用して間違った対処を宣伝し続けています。
判決の出た1995年にも
『SIDSで死ぬ赤ん坊の大半は、誕生前から正常ではない事を、我々は知っています』
と書いたパンフレットを50万部
『SIDS研究所』の刊行物として
『モニターを使用すればSIDSの死亡率を下げる事が出来る』と
アメリカ中の小児科の待合室に配られました。
殺された赤ちゃんを元に生まれた学説は
生き続けているのです。
モニター会社は超巨大企業になっています。

現に1999年に当事者の家族になった僕ですら
この学説を知り、無呼吸モニターのパンフを持っています。

『生まれ持ったリスクの高い子がなるべくしてSIDSになる』
全くの嘘です。

研究が30年遅れているといわれる原因がここにあります。
そして我が家は娘を失いました。


これまで書いたことは全てこの本の中に中に書かれています。

赤ちゃんは殺されたのか
リチャード・ファーストマン

ジェイミー・タラン


実川元子=訳

文春文庫
フ-20-1

発行所
文藝春秋

ノンフィクションサスペンスとして
MWA賞犯罪実話部門最優秀賞に輝いたと紹介されています。

読み応えのある本ですが、
この実話の延長線上にわが子の死を経験した僕にとっては
はらわたの煮え繰り返る思いでした。

研究者にこそ読んでもらいたい本です。

この本の初めのページにある言葉を肝に銘じてください。

『医療においては、もっともらしい学説を打ち立てる事ではなく、
経験と理性を働かせるべきである』
ヒッポクラテス
(ヒッポクラテスの書)

そしてこの出来事は
イギリスのBBCがドキュメンタリー番組を制作しています。
『死角・SIDS(乳幼児突然死症候群)予防法研究の陰で』
と言う番組です。
http://pub.maruzen.co.jp/videosoft/bbc/search/html/1600027.html
こちらにその番組を紹介するページがあります。

番組の終わりに
この事件を解明する事に関わった医師にインタビューする場面があります。
事件が解決した後にこの間違った学説が活字になって出版されている事を聞かされます。

1998年の『臨床小児科学』4月号に
A・シュテインシュナイダーの発表した
殺された赤ちゃんを元に生まれた学説が載っている事を知らされ。
それを手渡され、確認して、
編集者に一言と問われ
『恥を知りなさい』
と答えています。


日本では



〜だから
〜がある時
〜の成長が一般の乳児と違う場合
〜が多い、または少ない乳児は
無呼吸が起こりやすい

今の日本のSIDSを説明する時に使われる言葉です。
無呼吸説から脱していません。

過去にも紹介しましたが
ISA(赤ちゃんの急死を考える会)では
新生児をうつ伏せに寝かせ
その様子をビデオに残すと言う作業をしてきました。

苦しくて顔を動かし息をしようとする赤ちゃんが
やがて顔を動かす力がなくなり
真下を向いてしまい息が出来なくなるという映像があります。

普通に考えれば書いたとおりの出来事ですが
ある研究者はそれを見て
無呼吸が起こった瞬間であると捉えます。
発達の遅れによるものでSIDSへと続く過程だと
先天的な原因によって起こったといいます。
その赤ちゃんは特別だ
普通の赤ちゃんは危険を回避できると

これはある裁判で実際に証言された事なんです。
日本でです。
証言したのは日本でSIDSの研究者として名が挙がる人物で
施設側を擁護する立場での発言でした。

『医療においては、もっともらしい学説を打ち立てる事ではなく、
経験と理性を働かせるべきである』
ヒッポクラテス
(ヒッポクラテスの書)

SIDS問題は遺族の問題が大きいと考える研究者が多いのも事実です。
それは間違いではないでしょうか?
当事者は子ども、遺族は脇役です。
SIDSの研究とは別の問題ですよ。
壇上にA・シュテインシュナイダーが引き連れてきたように
研究に巻き込むのは間違った結果を出します。
政治的な問題や感情論は医学に関係ないはずです。

ある保育園で預かった子どもが突然死した。
それを苦に保育士が自殺をした。
SIDSの啓蒙がしっかりとなされていたなら
そんな悲劇は起きなかった。
これも実際に聞いた話ですが、
不愉快でたまりません。
自分の命も大事に出来ない人間に我が子を任せてしまった。
僕はそう取ります。
そして我が子は不幸を振りまく子にされてしまった。と

研究者なら
その突然死は本当にSIDSだったのか?
ほかに死因は考えられないのか
そこのみを考えればいいと思います。
感情論や政治的な判断を取り入れているうちは
絶対に研究は進まないと思います。

責任の所在の捜索や
残された人のケアなどは他の専門家がいます。

子どもが突然死して警察で長い時間取調べを受けた。
残された家族が疑われて傷ついた。
SIDSの啓蒙が進んでいれば家族も傷つかなくてすんだ。
我が家も妻と僕は風歌の死が病院で確認された直後から5時間以上
警察で取り調べられました。
保険の額は?普段の育児はどうしてた?貯金は?
子どもを可愛がっていましたか?

それは必要な事です。
研究者が口にする問題ではない。
僕と妻の場合ですが、他の遺族の気持ちは分かりませんが
そんな事で傷付く心のゆとりは
子どもをなくした直後にはありませんでした。
哀しみが大きすぎて悲しすぎて
後になって思い出して酷い事言われたと
他人事のように思い出した程度です。

親が子を殺す事件
保育士が看護士が子どもを殺す事件
聞いた事がないですか?
突然死からその可能性を排除しSIDSと確定させる為にも
警察にはしっかりと調べてもらいたい。
中には傷つく方もいるのでしょうが
この問題については遺族の組織がちゃんと警察に働きかけています。
研究者は自分の研究だけしっかりして欲しいです。

また、
日本のSIDS学会で気になる発表を聞く事が多々あります。
SIDSの原因は何とかウィルスだ、
だがしかし解剖しても何とかウィルスは見つからない場合がある。
それが見つからなくてもSIDSである。
または、誰もが普通に持っている何とか菌がもしくは何とかと言う物質が原因である。
だがしかし特定の赤ちゃんによってはそれが原因で死に至る

何だそれは?と僕は思いました。

今年もSIDS学会が行われました。
僕は今年はいけなかったのですが
会場には、我が家と同じく
施設でのわが子の突然死を経験した仲間がいました。
志保ちゃんのご両親とまどかちゃんのご両親です。
どのような発表があったのかという事を知らせてくださいました。

送っていただいたレポートはこの下からリンクしたページで掲載します。
目を通してください。
SIDS学会のレポートへ

簡単に説明すると
新たな病理的な発表はほとんどなく
解剖の大切さを訴え
日本の制度の不備の指摘や
今後こうあるべきだといった内容だったそうです。

何か前にも聞いた事があるような気がします。
何年も前から繰り返し聞いています。

解剖が大切だと言う事は他の事件からも伺えます。

一人の子どもが不審な死を遂げた
検視の結果、警察の発表では、その子は川で遊んでいて事故死した。
その後、近所の子どもが殺された。
実は初めに事故死とされた子どもは
母親に橋の上から落とされた。
よくわからない理由で近所の少年も
同じ人間に殺されていた。

どこかで聞いた事がある事件だと思いますが
この事件も解剖や初動捜査に間違いがなければ
二番目の犠牲者は出なかったはずです。

一層の努力を願います。


もう一冊紹介したい本があります。

****子どもの命を守る保護活動****

保育のなかの事故
保健指導シリーズ8

****子どもの命を守る保護活動****
保育のなかの事故
保健指導シリーズ8
全国保育保健師看護師連絡会
2008年1月発行

会長 藤城 富美子
〒164-0003
東京都中野区東中の1-54-6
マツヤビル3階 301号室
FAX 03-6676-9991

保育に関わる方が作成された
事故防止の為の本です。

『風のあしあと』からも引用してくださいました。

SIDSだから仕方が無いというスタンスではなく
SIDSでも防げるのであれば努力をしようと
注意を喚起してくださっています。

うつ伏せ寝の危険を取り上げてくれています。

SIDSと突然死を混同している。
そう思われかねないかと思いましたが

子どもが死ぬような事がなければ
死因など関係ないと思えました。
極論を言えば
死因が問題になるのは遺族などの残された人間だけだす。


子供の事を第一に思って作られています。
子供の為にに役立つ本です。
役立つ事を願います。

結果的に取り巻く誰もを幸せにしてくれると信じています。
僕の言う幸せは普通である事です。



2008年3月26日
愛娘風歌の10回忌に
宮田浩太郎