この1年

(三回忌2001年3月26日)

またこの日が来ました。
風歌の命日です。
風歌と過ごした楽しい日々
その短くても光に包まれていた思い出も
この時期には悲しい記憶に押しつぶされてしまいます。
一周忌からのこの1年、残された僕達夫婦は
SIDSを取り巻く出来事やニュース
新しいうつ伏せ寝の犠牲者
戦っている残された家族との接触
等から沢山学びました。
ここにまとめて発表します。


@
2000年の春に
一つの研究が報告されました。
それは、
『乳児人形モデルによる再呼吸シュミレートから見た
寝具の危険性の検討』
と言う研究成果報告書です。

これは、タイトル通り
乳幼児人形モデルを使って、
再呼吸が起こるかどうか検証した報告書です。
結論だけをここに紹介します。
(原文のままです。)

結論
@.うつ伏せ寝、特に顔が真下になった状態ではいかなる寝具を用いても、
再呼吸の危険は高まる。よって仰向け寝を推奨すべきとの厚生省の見解は、
再呼吸を防ぐ意味からも支持される。
A.寝返りの可能性を考慮し、仰向け寝の場合であっても寝具に対し
充分な配慮が必要である。
B.たとえ固い布団であってもバスタオル1枚の使用が、
CO2拡散性に悪影響を及ぼす。今回の実験では、『新しくて硬い乳児専用の
布団の上にせいぜいシーツ1枚』が、うつ伏せ寝におちいった場合でも
再呼吸の危険が少ない寝具環境であった。
C.再呼吸の起こりやすさは寝具自体の特性により決まり、
寝具の外観のみからは判断する事が困難である。『硬い、柔らかい』、
『通気性が良い、悪い』と言った単純な主観的な判断に基づく使用は危険である。
D.実際の死亡事例におけるCO2拡散性の低下は、
11例中10例で仰向けの1.5倍から2倍程度であり、再呼吸だけを持って、
乳児突然死との直接因果関係を述べるまではできなかった。
E.乳児突然死の診断には状況調査の中に寝具環境の
客観的評価を含める事が望ましい。

以上です。


もう一つ
インターネット上のニュースで
2000年の秋に見つけたものがあります。
これも原文のまま紹介します。

A
乳幼児の突然死は横隔膜と関係か ?
2000.10.14

乳幼児が何の前触れもなく突然死亡する、乳幼児突然死症候群(SIDS)。
原因は明らかになっていないが、SIDSの発生を防ぐため、
医者は両親に乳幼児をあお向けに寝かせるようアドバイスしてきた。
なぜ乳幼児の寝る姿勢が重要なのか、
アメリカのチームが横隔膜の動きに注目し研究をまとめた。

SIDSは、1歳以下の赤ちゃんが突然前触れもなく死亡するもので、
アメリカでは黒人とアメリカインディアンの男児に起きる危険性が高いとされている。
原因は明らかになっていないが、赤ちゃんをうつぶせに寝かせることが重要な
危険要因であると指摘されている。

アメリカでは1990年代初めからアメリカ小児科学会が
「乳児はあお向けに寝かせるよう」注意を促してきたところ、
SIDSの発生率はこれまでに40パーセント減少した。

ロードアイランド記念病院の研究チームは、
寝る姿勢とSIDSの関係を調べるため、16人の睡眠中の赤ちゃんを対象に、
呼吸に重要な関わりを持つ横隔膜の動きを超音波で観察した。
同時に心拍数や血中の酸素濃度などを測定した結果、うつぶせで寝ている間、
横隔膜が厚くなり、呼吸のサイクルが短くなることがわかった。
チームは横隔膜の変化で呼吸に関連する筋肉が弱まり、
呼吸に何らかの障害が起きるのではないかと推測している。

研究成果は、寝る姿勢がどのように呼吸に影響するか解明する上で重要だと
関係者の注目を集めている。しかし、SIDSの発症の危険因子については、
うつぶせ寝のほか赤ちゃんを柔らかいものの上に寝かせる▽母親が妊娠中に喫煙する
赤ちゃんを暖めすぎる--など、さまざまなものが指摘されていて単一の原因で
起こるものかどうかも含め不明な点が多く、全容解明には長い時間がかかりそうだ。


以上です。
一つ補足したい事があります。
SIDSの危険因子の一つに、赤ちゃんを暖めすぎる
という言葉がありますが
これに付いてです、
B
日本の研究では厚着をさせすぎるのが悪くて
部屋全体を暖めることを心がけようと言います。
厚着をさせすぎると
赤ちゃんがオーバーヒートして
無呼吸に陥りやすいという事だそうです。
この説も2000年の春に発表されました。

この説には単純に考えて、
服が邪魔して呼吸の妨げになるのでは?
と疑問を感じます。



ニューズウィーク日本語版
2001年1月17日号です。

この本に、
『子どもを悲劇から守る為に』
と言う特集が組まれています。
 
この後に、寝かせ方として
硬いマットレスに
仰向けねに寝かせよう
とあります。


ここで基本に戻りたいと思います。

この図が基本です。
突然死と言う結果があって、
SIDSや窒息その他など原因があると言うことです。
この基本から言えば、
上の記事にも少し気になる部分があります。


ここでSIDS以外の突然死の原因に付いて書きたいと思います。
窒息と一言でいってもこれにも様々なものがあります。

@鼻や口がふさがれた、いわゆる鼻口閉塞によるもの
A異物や吐物が気管に詰まって起こるもの
B吸気の中の二酸化炭素濃度が高い時に起こるもの
等があります。

乳幼児突然死について絡めて行くと
@Aに関連した事ですが、
新生児でまだ気管が未発達な赤ちゃんの場合
首の角度によって気管が、
急な角度をつけたゴムホースがそうなるように
折れてつぶれてしまう時があるそうです。
気を付けて欲しいと思います。

上の@の研究発表はこのBに属します。
二酸化炭素濃度が高い場合の窒息は
まず身体の自由が奪われると言います。
一つの例ですが。
1997年の7月に
八甲田山でレンジャー訓練中の自衛隊が
くぼ地の中で3名亡くなるという事故がありました。
事故当初、死因は亜硫酸ガスか硫化水素の吸引と思われていました。
しかし現場を徹底的に調査した所
ガス穴と呼ばれる穴から大量の二酸化炭素が確認されました。
最初に2人の隊員が動けなくなり、
救助に向かった一人も亡くなりました。
偶然が重なった悲しい事故です。
この方達は危険回避においては
他の例を見ないほど卓越していると思います。
もちろん首も座っているし、
ハイハイもできます。
しかし、二酸化炭素濃度の高い空気には勝てませんでした。
危険回避ができなかったのです。
これが、@の研究では、自分のはいた二酸化炭素(CO2)
を繰返し呼吸する事によって濃度が上がる可能性が、
寝具や姿勢によってありえる。
と言うのが結論です。
対処としては、
寝ている赤ちゃんの口の周りの換気に気をつけると言う事です。
Aの研究は、SIDSの原因と言うより、うつ伏せ寝が赤ちゃんに与える影響です。


この1年の中で僕は
新しい母子手帳を見る機会がありました。
そこにはちゃんとうつ伏せ寝について
気を付けるようにとの記述がありました。
風歌の母子手帳にはなかった記述です。

そして看護大学の学生さん、指導員の方
と話をする機会にも恵まれました。
学生さんに質問をしました。
新生児のうつ伏せ寝について
学校ではどのようなことを学ぶのか?
特別な事は学んでいないとのことでした。
指導員の方にもお聞きしました。
新生児を扱う立場の方に厚生省から何かありましたか?
現場に任されているとの事で、
立場柄様々な病院の新生児室をみるが、
うつ伏せ寝で看護する病院もあるが、
仰向け寝を徹底している所もあるとの事です。

また、誠実な小児科の先生にうつ伏せ寝についてお話しを伺いました。
うつ伏せ寝は乳幼児にとってかなりの運動に値する。
全くしないと首のすわりが遅くなる等の問題もある。
体を鍛える為にも、起きている時でいいので、
目を離さない状況で、うつ伏せ寝と言うより
腹ばいにして運動させる事も必要である。
とお聞きしました。


僕達は、これらの事を知り
2001年の春に開催される
SIDS学会の総会に期待しました。
2000年にあった総会では、
驚くべき事をある医師が口にしていたのですが、
今回それは、きっと軌道修正されて
SIDSと言うよりは
乳幼児の突然死全体が減って行くような結論を発表してくれるだろうと
うつ伏せ寝は窒息を防ぐ意味からも気を付けるようにと
言ってくれるのではないかと、期待していました。

総会に行った方から、
プログラムと総会の模様を録音し
文章に起こした物を見せてもらいました。
日本のSIDS学会は2001年の春の総会で、こう言っています。
うつ伏せ寝では、乳児は窒息しない。
発見時真下を向いていても、窒息であるとは言えない
発見時口に物が詰まっていても、窒息とは言えない
解剖時窒息の所見があっても窒息とは言えない。
0歳児の赤ちゃんでも危険回避能力はある。

これらの事は信じないで下さい。
日本の赤ちゃんはスーパーマンではありません。
ニューズウィークにもあるように
窒息事故を防ぐと言う意味からも
うつ伏せ寝に注意すると言うのが
世界の流れです。
現実に突然死で発見される赤ちゃんの80%以上が
うつ伏せの状態で発見されています。
それでも、うつ伏せ寝は無関係だと言います。
日本の今のSIDS学会は、
突然死は全てSIDS
だと言っているようなものです。
危険回避能力と言っても
どこまでできるものなのでしょうか?
苦しければ何らかの行動を起こすと言いますが、
行動を起こせない状況と言うのもあると思います。
上のニューズウィークの記事の中にも
『姿勢を正す運動能力も筋力も無い赤ん坊』と言う一文もあるではないですか。

この春の総会で一番驚いたのは、
事故を起こした施設側の弁護人で
幾つもの訴訟をこなしている
現役の弁護士を呼んで講演させた事と
その講演の内容です。

全文紹介したいのですが、あまりにも一方的な内容で、
SIDSを悪用する人に悪知恵をつけるようなことを発表しています。
全文紹介は止めて、一部紹介します。
(プログラムから一部抜粋)
看護婦などの過失について

看護婦などが児の状態を前提に、どのくらいの間隔で
児の状態を確認すべきかが問題とされる。
しかし、SIDSは定義上もその発症は予見できないうえ、
これらは仰向け寝の場合でも起こるのであるから、
それがうつ伏せ寝だから起こった(仰向け寝では起こらなかった)
と言えない限り、SIDSとの観点からこれを予見して
児の状態を確認すべき義務は生じないはずである


これなどは、その内容の一部です。
色々と言いたいことがありますが、
ご自身で判断してください。
もう一つ紹介します。
最後の一文です。
(プログラムから一部抜粋)
医療従事者として最初に児の異常を発見し
蘇生に尽力した看護婦らが犯罪者の汚名を着せられる事があってはならない。

これには一言言わせてもらいたいと思います。
完璧な看護をしていての異常なら、この意見も理解できます。
異常が起きるまで、放っておいて
異常が起きてから尽力しても遅いのです。
異常が起きない努力を望みます。

そしてこの方の講演は、
司法の不備を指摘して
そこに付け込んだ勝訴の仕方を伝授しています。
こんな事を言わせるSIDS学会とは何なのでしょうか?
僕としてはこの学会に名前を変えて活動して欲しいです。
『SIDSを都合良く使う為の会』とでも。

本当ならば、我々施設で子どもを失って
SIDSという言葉に苦しめられている立場からも
話しを聞いて、それに付いて討論してくれる
そんな学会であるべきだと思います。


2001年になって、ある無認可保育園で
痛ましい事故がありました。
一つのベビーベッドの中で、
生後4ヶ月の赤ちゃんの上に生後8ヶ月の赤ちゃんが
顔の上に覆いかぶさって、
下になった赤ちゃんが亡くなったと言うものです。

この出来事で興味を持った事が二つあります。
一つは解剖の結果です。
新聞によると解剖の結果は不明とありました。
窒息と断定できなかったと言うことです。
何故興味を持ったかと言うと、こんな事故の場合でも
解剖をしても何もわからないと言う事にです。
いかに異常発見時の状況が大切かが伺えます。
発見時の状況が隠されていたら、
大きく報道される事はなかったのであろうと思います。

そしてもう一つは、
この無認可保育園はチェーン展開しており。
この事故の施設以外の同系列施設で、
過去に19件の死亡事故が起きていると言うことです。
その19件の中で施設がSIDSを主張して今裁判をしているケースもあります。
過去に起きた事故が教訓になっていたら
今回の事故は起こらなかったのではないかと思います。


僕達はやがて死ぬでしょう。
そして天国とか地獄とかは関係なく
風歌やあしあとのページにいる天使達に逢えると
僕達夫婦は信じています。
その時、僕達はこう言うつもりです。
『風歌、パパとママは、風歌の名誉を守る為頑張ったんだぞ。』
胸を張って逢えると信じています。

『SIDSを都合良く使う為の会』の方
土下座でもして謝ってやってください。
子供達が証言できない事を良いことに
天使達の名誉を傷つけたと言うことを。
貴方達が軌道修正しないと
これからもうつ伏せ寝、杜撰な保育、杜撰な看護
その犠牲者が減る事はないのです。

一つの可能性として、
漠然としたうつ伏せ寝を止めるというキャンペーンで
子どもを愛する家庭での事故が減っていき
施設で突然死する赤ちゃんの割合が上がって行った時
貴方達の正体がばれる時です。
短い命でも言葉を残せなくても
赤ちゃんにも人権があると言うことを考えて下さい。

『SIDS学会』の中にも本当に子ども達の事を
一番に考えてくれる方もいると信じています。
よろしくお願いします。

2001年3月26日